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youtube社会科マスターのプリントダウンロード用です。たまに,中学社会科の過去の教科書との変更点について書きます。

鉄砲を伝えたのはポルトガル人?

こんにちは。

 

「1543年にポルトガル人によって鉄砲が日本に伝えられた」

と習った方が多く,テストにも「ポルトガル」というのがよく出題されていました。

しかし,最近では,「ポルトガル」を問う出題がほとんどないように思います。

 

そのあたりを「倭寇」像とからめてお話いたします。

倭寇を海賊だと思っている方,そう習った方が多数だと思いますが,

倭寇についてもう少し正確にとらえないと歴史の実像は見えてきません。

 

例によって教科書の記述をひろっていきます。

 

『中学生の歴史』(帝国書院)P90「鉄砲の伝来」を引用

1543年,種子島(鹿児島県)に漂着した倭寇の船に乗っていたポルトガル人によって,日本に鉄砲が伝わりました。その後,ポルトガルの船が東南アジアから平戸(長崎県)・長崎・府内(大分県)にも来航し,スペインの船も日本へ来てヨーロッパとの貿易が始まりました。(下線は引用者による)

 

倭寇の船に乗っていた」という部分で多くの方は首をかしげるのではないでしょうか。

「なんで,海賊船にポルトガル人が乗っているの?」と。

 

倭寇については教科書でこのように記述されています。

 

前掲書P68「明を中心とした体制と倭寇の活動」を引用

南北朝の内乱が続いていた14世紀半ばから,東シナ海では倭寇の活動がさかんになり,朝鮮や中国を苦しめていました。倭寇は,松浦地方(長崎県佐賀県)や九州北部の島々などを根拠地とし,密貿易や海賊行為をしていました。このころの倭寇は日本人が中心で,ほかに朝鮮人や中国人なども加わっていたと考えられています。

(中略)

中国では,1368年に漢民族によって明が建国され,(中略)倭寇を取りしまる理由もあり,民間人の海外渡航や民間の交易を禁止しました。(下線は引用者による)

 

まず,倭寇が海賊だとは書いてありません。

「密貿易や海賊行為をしている」と書いてあります。

 

ほかの下線部とも関連させて説明します。

明が民間の交易を禁止する海禁政策を行っており,貿易を行う商人たちの活動も禁止されました。彼らの中には,密貿易をつづけた者も多いと考えられています。さらに,倭寇には中国人も加わったと書かれています。倭寇については,前期倭寇は日本人が中心でしたが,後期倭寇(鉄砲伝来のころも)は中国人が中心でした。

つまり,明の海禁政策によって,明の一部の貿易商人たちは密貿易を行うようになり,倭寇となった。というのが,見落とされている倭寇像です。密貿易商人たちは自衛のために武装する必要があり,武力をもっているので場合によっては海賊行為を行い,その被害も伝えられているため,「海賊」という倭寇像も存在しています。しかし,倭寇が「貿易商人」である点を見てあげないと歴史の実像は見えてきません。

 

さて,鉄砲のからみに話を戻しましょう。

教科書の「倭寇」と「鉄砲伝来」の間には,ヨーロッパの大航海時代の記述などがあります。ポルトガルやスペインがアジア(おもに南アジアや東南アジア)に進出して貿易を開始したことも書かれています。

ほかの箇所ですが,16世紀の倭寇琉球や台湾,中国南部でも活動していたことや,琉球が中継貿易で栄えたことが記述されています。

こうして,貿易が盛んになって交易路も拡大していく流れの中で,ヨーロッパ諸国,琉球,密貿易を行う倭寇の活動が結びつき,やがて日本でも南蛮貿易がはじまったと解釈できますし,教科書の記述はここまで掘り下げていませんが,こうした背景を重んじたうえで記述されていることがわかるでしょう。

鉄砲伝来についても,倭寇が貿易商人だと考えると,ポルトガル人と貿易によって友好関係にあっのが,何らかの理由でこのとき倭寇の貿易船にポルトガル人が乗船していて,それが種子島に漂着したと自然な説明ができます。

 

まだまだこれから教科書に載るかも知れない内容としては,1543年に種子島にやってきた倭寇五島列島を拠点に活動していた中国人倭寇の王直だと言われています。「漂着」したのではなく,はじめからポルトガルと日本の貿易をプロデュースする目的でやってきた可能性もありそうです。

 

見出しに「鉄砲を伝えたのはポルトガル人?」と「?」をつけましたが,

果たして,こうした状況を見たときに,鉄砲はポルトガル人が「伝えた」とは簡単に言えない部分がありそうです。(どちらかといえば,中国人倭寇が伝えた面のほうが大きいように思います)したがって,入試でも問われることが少なくなったのだと思います。

 

中学の歴史では,信長・秀吉の前に,ポッといきなり世界史がはさまります。日本史との結びつきを生徒にしっかり理解してもらうと,歴史が立体期に見えてきて授業の面白くなるのではないでしょうか。

倭寇が貿易商人だと説明すると,大航海時代と結び付けてイメージしやすくなるように思います。

 

では。